ビジネス英文メールの書き方 第3回

第二回では、ビジネスコミュニケーションにおいて丁寧さ/失礼さを決める要素について一般的に話しましたが、 今回は具体的に、日本人が不用意に使って相手の感情を損ねてしまいがちな単語や言い回しの代表的なものを紹介しましょう。 一般的に言って、感情問題を起こす根底には、相手を自分より下と見る姿勢(上から目線)または相手を攻撃したり責めたりする姿勢(非難する目線)があることを認識する必要があります。

1. 上から目線または非難する目線があからさまであるもの

以下の言い回しは、筆者自身が昔使って失敗した、あるいは、日本人の同僚が使って問題を起こした、よくある例です。



(1) You should … (「... すべき」という意味で)


(2) You’d better (You had better) ... (「... した方がよい」)


(3) You must ... (「... しなければならない」)


(4) You have to ... (「... しなければならない」)


(5) You are supposed to ... (「... すべき」)


これらは、留学など実社会からある意味で隔離された環境、特に友人同士ではよく使いますのであまり抵抗がないため、うっかりすると会社に入ってからも使ってしまいがちですので要注意です。

2. 一見明らかではない(したがって多くの日本人は気がつかない)、上から目線であるもの

一般に、相手に働きかけて何らかの効果/行動を期待する類の、広義の使役動詞を、自分から相手に向けて使う場合には、 上から目線ではないかどうかチェックした方がよいでしょう。特に、下記の動詞を用いた、一人称(I または we)が主語、二人称(you)が目的語という不定詞構文は、頻度が高いだけ要注意です。


advise command direct expect force
get instruct need order press
require tell urge want would like

例1)
Let me advise you to read the manual carefully.(マニュアルを注意深く読むよう忠告します)
例2)
I expect you to call me by 9 p.m.(午後9時までに電話することを期待します)
例3)
I told you to submit the report by Friday.(金曜日までに報告書を提出するよう言ったよ)
例4)
I want you to take the minutes.(あなたに議事録を書いて欲しいのだ)
例5)
I would like you to make three copies ASAP.(できるだけ早く3枚コピーしてください)

例えば tell という動詞は、学校では「say とほぼ同じ」として、言い換えの演習例文によく使われますが、実際は、「指示する」という命令に近い意味で使うことが多いので、言われた方は一般にカチンときます。実際筆者は、米国のパートナー会社の職場を歩いていたときに、誰かが次のような台詞を使って大声で部下を叱責しているのが聞こえてきて、肝をつぶしたことがあります。


“Are you telling me!? I AM TELLING YOU!”


これは、指示通りに仕事が出来ていないのにクダクダ言い訳をする部下にいらだって、 上司が癇癪玉を爆発させている、という状況です。こういうことは日本の学校ではなかなか教えてくれないですが、実務では非常に大切な教訓ですので肝に銘じておきましょう。 ちなみに、最近の中型辞書(和英、英和とも)の多くはこのような動詞の使い方(丁寧さ)について注意書きを記載していますので、知っているつもりの動詞でも、一度は辞書をひいて使い方を再確認することをお勧めします。


また、”I would like you to …” は、「would を使っているから丁寧なんだ」と信じている人がネイティブスピーカーの中にもいますが、基本的には上から目線です。 部下に使うのはよいでしょうが、同輩や上司、ましては顧客に対しては使わない方が無難です。この言い回しに関して、筆者はあるとき6カ国30数名のネイティブスピーカー社会人を対象にアンケート調査しましたが、過半数が「丁寧さに欠ける」という意見でした (逆に、半数近くの人が「問題なし」と回答したのには驚きました)。たまたま近くにいる外国人に聞いたところ「問題ないよ」と言われたからといって、そのまま安易に信用してはいけません。周りの人が日本人だからといって全員が正しい日本語を使えるとは言えないのと同じことです。 外国からのダイレクトメールなどでは何かに誘うような軽い場面で使っている例もあることはありますが、マネしない方が賢明です。

2022年12月9日

特定非営利活動法人 プロフェッショナルイングリッシュコミュニケーション協会
理事 平井 通宏(技術士 情報工学)


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