生成AIと著作権法に関するCRSのレポート

2024年4月

特定非営利活動法人プロフェッショナルイングリッシュコミュニケーション協会
理事 渡辺

 生成AIは、伝統的な著作権の枠組みにおける「人間が創作した作品だけが著作権法による保護を享受する。」というコアな考えに大きな課題を提起しているようです。

 米国において生成AI関連の訴訟は、著作権だけにとどまらず、プライバシー権、パブリシティ権、商標権などの侵害や生成AIによる虚偽の情報提供が名誉棄損にあたると主張する訴えなど多岐に渡っています。訴えの中には、裁判所で取り扱える内容ではないと判断されたものも多いのも実情です。それでも、AIによる著作権侵害の訴訟がひときわ目立っています。

 その生成AIと著作権法の問題に関する米国の状況を理解する上で、IPECの受講生の方々に以下の資料を紹介したいと思います。

 その資料は、米国連邦議会図書館の連邦議会調査局(Congressional Research Service: CRS)の立法担当弁護士(Legislative Attorney)がまとめたLegal Sidebarレポートです。タイトルは、「Generative Artificial Intelligence and Copyright Law」(生成AIと著作権法)です(以下「本レポート」)。

 本レポートは、2023年2月24日に最初のバージョンが公表され、2024年4月23日現在で確認できる最新版は、2023年9月29日にアップデートされたものです。全部で6バージョンを有するレポートですが、内容面のアップデートは、2023年5月と同年9月になされています。受講生の皆さんには、最新バージョン6を紹介します。本レポートは今後も同じ著者によってアップデートされるものと理解しています。

 本レポートの内容については、生成AIのアウトプットに著作権保護が与えられるのか、また保護の対象となる部分があると仮定するとその著作権は誰に帰属させるのか、生成AIの訓練プロセスにおいて他人の著作権を侵害する可能性はあるのか、そして生成AIの提供会社だけではなくユーザーについても侵害したとして訴えられる可能性はあるのかなどについて、裁判例や関係当事者の意見などを引用して、コンパクトに説明しています。また、生成AIのユーザーが理解しておくべき内容も含まれており、いろいろと考えさせられました。

 参考までに、この連邦議会調査局という組織は、立法補佐機関であり、法案の起草に先立つ初期の議論の段階から、各種委員会における公聴会、本会議における討論、法律施行後の状況に至るまで、立法過程のあらゆる段階で、上下両院の議員や委員会を補佐しています。議会活動に対するCRSの主な役割の一つとして、CRSレポートの作成があります。今回紹介する本レポートは、CRSの立法担当弁護士Christopher T. Zirpoli氏によって作成されたものです。本レポートが議員や委員会向けに作成されたものであることを理解しておいてください。ですから、難しい問題を、正確かつコンパクトに説明するように努力しています。

 著作権法だけではなく、また立法動向に関連することだけではなく、米国社会が抱える課題や問題を理解する上でも、CRSレポートをフォローしておくことを検討してもよいと思います。

 なお、本レポート(英文)は下記から入手できます。
 https://crsreports.congress.gov/product/pdf/LSB/LSB10922

 また、IPECとして本レポートの一部補足説明を加えた日本語版仮訳を用意しています。仮訳を入手希望の受講生及び修了生の方々におかれましては、事務局に問い合わせた上、入手してください。

 日本語翻訳版は、あくまでも参考として、原文を必ずチェックする習慣を身に付けたいものです。さらに、例えばAI分野におけるtrainingとlearningの使い分けについては、それぞれの語義をNIST(米国国立標準技術研究所)などの信頼できる機関のglossary上の定義で確認しておくといったことも大切だと思います。

 少し難しい内容を含んでいる部分もありますが、楽しみながら本レポートを読んでみてください。(了)

 ※本記事はIPEC法務英語プログラム・看護英語プログラムの受講生及び修了生、会員校の大学・専門学校向けに作成されたものです。冒頭掲載の続きの記事にご興味のある方は、以下よりお申込みください。

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